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2.ユニバーサルデザインの事例と動向
 
#20 UDの都市空間 -- カールスルーエ市/ドイツ (1)
 
 日本の自治体関係者が、まちづくりのお手本として視察に訪れるカールスルーエ市(ドイツ)。中心市街地は自動車の乗り入れを禁止したトランジットモールで、障害のあるなしにかかわらず、誰もがまち歩きを楽しめる都市空間が形成されています。同市在住の松田雅央さん(NPOドイツ環境情報センター)に、“成熟都市カールスルーエの今”を2回に分けてレポートしていただきました。
 
松田雅央(まつだ まさひろ)
1966年生まれ。東京都立大学工業化学科大学院終了。在独7年。NPOドイツ環境情報センターを立ち上げ、日本へ生きた環境情報を発信している。
自動車の乗り入れを禁止した歩行者中心の市街地
ユニバーサルな都市交通システムをもつ緑豊かな計画都市
鉄道とトラムを融合したカールスルーエ・モデル/トラムと都市交通
鉄道とトラムを融合したカールスルーエ・モデル/交通連盟の存在
鉄道とトラムを融合したカールスルーエ・モデル/赤字の容認
自動車の乗り入れを禁止した歩行者中心の市街地
 
 ドイツ・カールスルーエ市のメインストリートはトラムと歩行者のトランジットモールになっている。ショッピングなどで多くの人が集う活気ある街並みは、まさしく市街地(City)のコアと呼ぶのにふさわしい。体に不自由の無い人だけでなく、杖をついてトラムに乗降する老人、ベビーカーを押してショッピングを楽しむ子供連れ、通りをさっそうと走る電動車椅子利用者、ボランティアに付き添われた知的障害者…。通り沿いのカフェに座ると、文字通りすべての人々が生き生きと街を楽しむ姿を眺めることができる。
 そういう様子を見る度にトランジットモールのもたらす影響力の大きさを実感するのだが、人とトラムが集中するがゆえの機能的な障害も顕著になっている。人出の多い昼時など、トラムは人を掻き分けるようにして進まなければならない。路線が集中しているから混雑時の運行密度は40秒に1本で、なんと“トラムの渋滞”まで存在する。こういった状況は歩行者の安全にとっても大きな問題で、これをどう解決するかが長年の懸案だった。
 そこで作成されたのがメインストリートのトラム地下化を中心とする大規模な都市総合再開発プロジェクト“City 2015”。2002年9月22日、トラム地下化に関する住民投票が行われ、賛成56%でいよいよ計画にGOサインが出た。
 将来を見据えた魅力あるトランジットモールのあり方や、市街地再開発に対する理想的な住民関与はどのようなものなのだろう? 市民の意見・市当局者の説明・地域住民でもある筆者の見解を通し、反対44%の意味も掘り下げながら、メインストリートのトラム地下化を中心にプロジェクトを考えてみたい。
 
トラムの乗降風景。1996年に導入された低床トラム。5つあるドアのどこからでも乗降できる   カールスルーエ市建設当初。左右に走っている大きな通りがメインストリート Copyright (C) Stadtarchiv Karlsruhe 8/PBS o XVI15
 
【写真左:トラムの乗降風景。1996年に導入された低床トラム。5つあるドアのどこからでも乗降できる、写真右:カールスルーエ市建設当初。左右に走っている大きな通りがメインストリート Copyright (C) Stadtarchiv Karlsruhe 8/PBS o XVI15】
 
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ユニバーサルな都市交通システムをもつ緑豊かな計画都市
 
 まず、カールスルーエの成り立ちから話を始めたい。カールスルーエが建設されたのは1715年だから、ドイツの中では非常に若い街といえる。城を中心にして通りが放射状に伸びているので、街のどこからでも城の塔を見ることができるが、こういう構造の街はドイツでは珍しい。その形と緑の豊かさから、カールスルーエ市は「緑の扇の街」と呼ばれている。
 人口は約30万。地理的にはドイツ南西部・ライン河の東に位置し、フランス国境まで車で20分ほど、スイス国境まで列車で2時間ほどである。市の上空が航空路の交差点になっているし、人口分布から見ても「西ヨーロッパのヘソ」にあたる。欧州連合(EU)の成熟によって国境の存在感はますます薄れているが、それと平行してライン河沿いの地域が国の枠を超えた経済・文化圏の形成を試みている。グローバル化と地域・都市の活性化が同時進行しているのが興味深い。
 ドイツの地方自治の活力の源は、それぞれの自治体が歴史的・文化的・地理的・社会的な特徴を認識して特長のある街造りを目指している点にある。もちろん、すべての自治体の試みがもくろみ通りに進んでいるわけではなく、産業構造の変化によって衰退している自治体もある。現在は、自動車産業・ハイテク産業・情報産業などの活発なドイツ南部の経済状態が良好だ。
 カールスルーエ市の特徴を簡単にまとめると以下のようになる。
  • 緑に恵まれた街並みを生かした、質・量共に充実した緑地政策
  • ドイツ最古の工科大学(現在は総合大学)を中心とする、ハイテク・情報産業
  • 100年以上の歴史を持つ先進的なトラムシステム
 特に、鉄道とトラムを融合したトラムシステムは“カールスルーエモデル”として世界的に有名である。カールスルーエ建設300周年まであと12年余り。2015年に向けて、さらに魅力あるCityの整備、ユニバーサルな都市交通システム構築を目指した総合プロジェクトが動き出している。
 
中央広場(Marktplatz);1906年 Copyright (C) Stadtarchiv Karlsruhe 8/PBS o XIVb 186   中央広場(Marktplatz);2002年 戦争で破壊されたために建物は新しくなっているが、広場、石畳、トラム、ピラミッド、市場など基本的な機能は変わっていない。この広場にも線路に平行して道路が走っていた時代があるが、現在はメインストリート同様、トラム・Sバーンと歩行者のトランジットモールになっている
 
【写真左:中央広場(Marktplatz);1906年 Copyright (C) Stadtarchiv Karlsruhe 8/PBS o XIVb 186、写真右:中央広場(Marktplatz);2002年 戦争で破壊されたために建物は新しくなっているが、広場、石畳、トラム、ピラミッド、市場など基本的な機能は変わっていない。この広場にも線路に平行して道路が走っていた時代があるが、現在はメインストリート同様、トラム・Sバーンと歩行者のトランジットモールになっている】
 
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鉄道とトラムを融合したカールスルーエ・モデル/トラムと都市交通
 
低床トラムと草地の線路。草地の線路は見た目が涼しいし、静音性にも優れている。車体にはCity 2015の広告が張られている カールスルーエ市に最初のトラムが開業したのは1877年1月。それから130年余りかけて路線の拡充が続けられてきたが、1960、70年代のモータリゼーション全盛期にはここでもトラムの廃止論が持ち上がった。ありがたいことに廃止されることはなかったのだが、その理由については「当時の市長に先見の明があったから!」という人もいれば「カールスルーエ市民は保守的だから、単に何かを変えるのが嫌だっただけ。」との意見もあるが、実際はどうだったのだろう。無くてはならない市民の足であることはもちろん、先進的なシステムとして世界的な注目を集めているわけだから、その意味でも街の財産として大きな価値がある。
 ところで、ここまで「カールスルーエ市のトラム」という書き方をしてきたが、実は、この表現には少々問題がある。市内を走る公共交通はトラムだけではなく、バス、Sバーン(近距離都市鉄道)などもあり、それぞれ有機的なつながりを持って機能しているから、トラムは常にその一部分として捉えられなければならない。
【写真:低床トラムと草地の線路。草地の線路は見た目が涼しいし、静音性にも優れている。車体にはCity 2015の広告が張られている】
 
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鉄道とトラムを融合したカールスルーエ・モデル/交通連盟の存在
 
古い教会とSバーン。伝統の街並みと最新技術が違和感なく共存している。実は、ドイツ国内でLRTという言葉は使われていない。「トラムはトラムだし、SバーンはSバーン(KVVの担当者)」。新型の車両はユニバーサルな精神が多分に生かされているが、あくまで100年以上続く都市交通の歴史の一部である。車両が新世代に進化したからといって、そこで不連続点を作る(呼称を変更する)必然性が無いのだ そのことに直接関係しているのが地域の交通連盟の存在である。トラム・Sバーン・バスはそれぞれ別個の会社(バスは複数)が経営しているが、チケットの販売・マーケティングはカールスルーエ交通連盟(KVV)が一括して行っている。KVVはカールスルーエ市だけでなく、バーデン・バーデン市などを含む周辺の複数市町村で構成されており、管轄区域が抱える人口は約100万人になる。(ドイツ各地にそれぞれの交通連盟があり、これがドイツ全土をモザイク状に分割している)
 都市交通を含めた地域交通は、整備計画・運賃システムなど必ずこの交通連盟の枠組みの中で考えられるから、カールスルーエ市のトラムの場合も「KVVのトラム」と書く方が、この先の内容を理解する上で助けになると思われる。
 KVVのトラムを利用してみると非常に快適なのだが、これには様々な理由が挙げられる。まず、(交通連盟一般の話だか)連盟がチケットを一括して管理しているので、1枚の切符で、区域内のトラム・バス・ミニバス・Sバーン・ドイツ鉄道の普通列車・(都市によっては)地下鉄に乗車できる。乗車距離が長くなればその分運賃は高くなるが、乗り換える度に切符を買う手間がかからないし、定期も1枚でOK。複数の交通手段を利用できることを考えると運賃は非常に安い。利用者からみれば、あたかも交通連盟内の公共交通機関は一つの会社が運営しているように感じられる。
 それから、普通のSバーンはドイツ鉄道(日本のJRにあたる)の線路の上をドイツ鉄道の車両で走るが、KVVの場合は街に近づくとトラムの線路に入る。街の中をあたかもトラムのように走り、郊外に出ると、またドイツ鉄道の線路に入り別の街まで走っていく。元々、トラムの線路幅がドイツ鉄道と同じだったので可能になったことだが、車両はドイツ鉄道(AC14,000V)とトラム(DC750V)の両方を走れるように造られている。こういうシステムを“カールスルーエモデル”と呼ぶが、「郊外から街の中へ乗り換え無しで!」というKVVのモットーが、この特徴を的確に表現している。実際にカールスルーエモデルのSバーンが開業すると、鉄道だけだった時と比べて同区間の乗降者数が数倍にも増える。
【写真:古い教会とSバーン。伝統の街並みと最新技術が違和感なく共存している。実は、ドイツ国内でLRTという言葉は使われていない。「トラムはトラムだし、SバーンはSバーン(KVVの担当者)」。新型の車両はユニバーサルな精神が多分に生かされているが、あくまで100年以上続く都市交通の歴史の一部である。車両が新世代に進化したからといって、そこで不連続点を作る(呼称を変更する)必然性が無いのだ】
 
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鉄道とトラムを融合したカールスルーエ・モデル/赤字の容認
 
ストリートミュージシャン・大道芸人はドイツの街並みに無くてはならないもの。彼らに、より快適な活動の場を提供することも City 2015のコンセプトの一つ。そのことからも、街における彼らの存在感の大きさが分かる こう書くと、まるでドイツの都市交通やKVVがパラダイスのように思えるかもしれないが、単純に日本と比較することはできない。まず、ほぼすべての交通連盟が赤字である。赤字幅は各連盟で異なるが、これは自治体が補填するので結局は市民の税金でまかなわれることになる。公共交通が市民サービス向上に直結していることは言うまでも無いが、特にトラムは街中で排気ガスを出さないので都市気候改善に有効だ。こういった市民の利益と赤字のバランスを取るのは自治体の長の役割であり、「公共交通も黒字であるべし」という日本とは、スタート地点が異なっている。
【写真:ストリートミュージシャン・大道芸人はドイツの街並みに無くてはならないもの。彼らに、より快適な活動の場を提供することも City 2015のコンセプトの一つ。そのことからも、街における彼らの存在感の大きさが分かる】
 
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