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2.ユニバーサルデザインの事例と動向
 
#35 ユニバーサルデザインの再定義
 
曽川 大/ユニバーサルデザイン・コンソーシアム研究員
 
 2001年と2003年、ニューヨーク市は2冊の建築ガイドラインを発行した。デベロッパーや建築家、建設業のUDへの理解と実践を促すのが目的だ。ガイドライン作成の依頼を受けたのは、エドワード・スタインフェルド氏が率いるIDEAセンター。ニューヨーク州立大学バッファロー校に付属する米国屈指のUDの研究所である。今回は、執筆・編集にあたったIDEAセンターの研究陣に共同執筆していただいた。
 
エドワードスタインフェルド / ダニース・レビン / スコット・ダンフォード / ベス・トーク / センター・フォー・インクルーシブデザイン&エンバイロメンタルアクセス (IDEAセンター) / ニューヨーク州立大学バッファロー校建築・計画学部
訳:曽川 大/ユニバーサルデザイン・コンソーシアム研究員
UD7原則の課題
アクセシビリティとUDの違い
単なる機能を超えたデザイン
UDは理想の追求
UD7の再考
UD7原則の課題
 
 今日まで、UDの定義と原則は概念を伝えるうえで重要な役割を果たしてきた。特に原則はデザインのあるべき姿を明確化し、製品や環境を評価する手法としても欠かせない存在となっている。しかし、10年を経過して多くのデザインプロフェッショナルたちが見直しの必要性を議論し始めている。現在の原則は、UDの実践者たちの考えすべてを反映しているわけではないからだ。おそらく、概念というものは、我々がUDを実践し経験を重ねる過程で進化するものなのだろう。

 例えば、今日我々はウェブやボイスメールシステムその他の情報コミュニケーションシステムがユニバーサルなツールであることに気がついた。目的が製品や環境づくりであっても、情報コミュニケーションを取り入れたシステムとしての考え方が必要なのかもしれない。
 
<ユニバーサルデザインの7原則>

【 原則 1 】 公平な使い勝手
多様な能力の人々にとって使いやすく市場性をもつデザイン

【 原則 2 】 柔軟な使い勝手
幅広い個人の嗜好や能力に適応するデザイン

【 原則 3 】 単純で直感的な使い勝手
利用者の経験や知識、言語能力、またはその時の集中力にかかわらず、使い方がわかりやすいデザイン

【 原則 4 】 知覚情報
周囲の状況や利用者の知覚能力にかかわらず、必要な情報を効果的に伝えるデザイン

【 原則 5 】 間違いへの許容
誤ったり意図しない行動に対し、事故や有害な結果を最小限に抑えるデザイン

【 原則 6 】 少ない肉体的労力
最低限の疲労で効果的かつ快適に使えるデザイン

【 原則 7 】 接近と使用に十分な大きさと空間
利用者の体格や体勢、移動能力にかかわらず、接近や到達、操作、利用に適切な大きさと空間を擁するデザイン
 
 原則の語彙が必ずしも正確に意図することを伝えていないという批判もある。例えば、原則5の「間違いの許容」は、間違いの傾向を弁護するようにも読み取れる。語彙の混乱は、原則を他国語に翻訳する際に困難をもたらす。原則はまた、異なる2つの考え方をもつようにも受け取れる。【 原則1と2 】 は、デザインの仕様に関するその他の原則と比べ、かなり総体的だ。【 原則3〜7 】 からは明確な尺度が引き出せるが、【 原則1と2 】 は評価には利用しにくい。
 
トライベッカ陸橋/この陸橋により、歩行者はローワーマンハッタンの混雑した道路を絶え間なく横断できる。ガラス窓付きのエレベーターが階段の代替として安全なアクセス手段となっている。階段とエレベーターの出入り口は同じ位置にある。   マルチシート便器/この便器は高さ調整が可能であらゆる体格や年齢の人が利用できる。   ノンステップバス/スロープ付きの低床バス。誰もが同じように昇降できるので、階段が上がれない利用客のために時間を待つ必要がない。
 
【写真左:トライベッカ陸橋/この陸橋により、歩行者はローワーマンハッタンの混雑した道路を絶え間なく横断できる。ガラス窓付きのエレベーターが階段の代替として安全なアクセス手段となっている。階段とエレベーターの出入り口は同じ位置にある。写真中央:マルチシート便器/この便器は高さ調整が可能であらゆる体格や年齢の人が利用できる。 写真右:ノンステップバス/スロープ付きの低床バス。誰もが同じように昇降できるので、階段が上がれない利用客のために時間を待つ必要がない。】
 
方向サイン/強いコントラストのサインシステム。文字とピクトグラムを併用し、幅広い利用者に方向を伝えている。   シーショアパークの歩道/遊歩道の両端のエッジで歩行者が間違って踏みはずすのを防いでいる。   斜路/歴史的建造物のアクセシビリティ改修で、階段や斜路経由で入り口に3方向からアプローチできるようになった。
 
【写真左:方向サイン/強いコントラストのサインシステム。文字とピクトグラムを併用し、幅広い利用者に方向を伝えている。 写真中央:シーショアパークの歩道/遊歩道の両端のエッジで歩行者が間違って踏みはずすのを防いでいる。写真右:斜路/歴史的建造物のアクセシビリティ改修で、階段や斜路経由で入り口に3方向からアプローチできるようになった。】
 
サービスセンター/売店のスタンドの高さを違えることで身長の異なる利用客が便利に使える。        
 
【写真:サービスセンター/売店のスタンドの高さを違えることで身長の異なる利用客が便利に使える。】
 
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アクセシビリティとUDの違い
 
 建築ガイドラインを執筆した経験で意見を述べたい。最も必要とされるのは、アクセシビリティとUDの違いを明らかにすることである。異なる考えであるにもかかわらず、多くの出版物は双方の概念を同一視している。我々は、現在の定義と原則の限界がこうした混同を招いていると考える。アクセシビリティは、特定の少数グループへの差別撤廃をめざす公民権である。一方、UDは市場に誘導される概念だ。法的義務よりも、多様な人口を背景にもつ現代社会の現実的側面と人口動態の変化を含む社会変化に対応する。

 アクセシビリティ法規の目的は、障害を持つ人々が使いやすいように建物内の障壁を取り除くことにある。そこでは、障害を持つ人々と持たない人々を区別している。もちろん、障害を持つ人々の権利を保障することは大切だが、こうした区別はデザイナーに2種類の利用者を想定することを暗示してしまう。このことが特定のグループへの不必要な注目を助長し、おそらくは障害そのものにも汚名を着せる結果をもたらす。「私たち」対「彼ら」という思考方法を作り出してしまうのだ。逆に、UDはすべての人々の利益を包括的にめざすアプローチだ。実際、そうしたユーザーの使い勝手と安全性を向上する余地は十分にある。

 UDはまた、アクセシブルデザインの考えを広げ、カバーしていなかったグループ、例えば、背の低い人、高齢者、妊婦、ベビーカーの利用者、言葉が不自由な人々なども対象としている。本来コミュニティとは、多様な人々の尊厳を尊重する集団なのであり、そうした人々を受け入れるための使い勝手と魅力を建築環境は備えなければならない。UDの定義は、使い勝手の改善がすべての人々の利益になるという大前提を強調すべきなのだ。ところが現在の定義では、「すべての人々に効果的に使われる」という機能性を強調している。このフレーズは障壁の除去を強調しているにすぎない。
 
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単なる機能を超えたデザイン
 
 現在の定義と原則は、主に機能に焦点を当てている。これはアクセシビリティの概念であり、もとはといえばリハビリテーションから派生したものだ。医療の概念を色濃く反映した結果、製品や環境を補助器具として捉えてしまっているといってもよい。問題は、機能だけでは人々にUDの採用を説得するのに十分ではないことだ。人は、単に使いやすいという理由で製品を買ったり建物を訪れたりはしない。UDは、質の改善の一部として、選択や相違を認めるというより大きな使命をもっている。使い勝手に対して他の大切なデザイン特性である審美製、サステナビリティ、都会性などを統合させねばならない。
 いったい、何人の人々が市場で最も使いやすいからといって不恰好で燃費の悪い車を購入するだろうか?UDの定義は全体的なデザインの質とその他先進的なデザイン哲学を反映すべきなのだ。要は、UDをできるだけ多くの意思決定者たちがこぞって取り入れるような思想にすることだ。特に、多くの補助器具やバリアフリー製品に見られるような不恰好で魅力がない印象を避けねばならない。
 
追憶ホール(ホロコースト・ミュージアム、ワシントンDC)このリフトは竣工後に設置された。空間を遮り、使用時の音で利用者への視線を集めてしまう。機能的だが、障害を顕著に見せるためUDではない。   ローズプラネタリユムの斜路(ニューヨーク自然史博物館)この斜路は、プラネタリウムのプロジェクションルームから出口まで、宇宙の歴史を伝える展示とともに続いている。すべての人々が展示物を共有できる。
 
【写真左:追憶ホール(ホロコースト・ミュージアム、ワシントンDC)このリフトは竣工後に設置された。空間を遮り、使用時の音で利用者への視線を集めてしまう。機能的だが、障害を顕著に見せるためUDではない。写真右:ローズプラネタリユムの斜路(ニューヨーク自然史博物館)この斜路は、プラネタリウムのプロジェクションルームから出口まで、宇宙の歴史を伝える展示とともに続いている。すべての人々が展示物を共有できる。】
 
ヘウイの手すりと付属品のシステム/この手すりは、法規に遵守した単純な形態を越え、使い勝手の向上に多くの選択肢を設けている。 UDには法規制がない。UDの適用はデザイナーや意思決定者を含む幅広い人々にかかっている。そのためには、障害を持つ人々へのアクセシビリティを超えた付加価値を備えねばならない。
 例えば、手すりのような製品にはほとんどの場合、アクセシビリティ基準が適用されており、多くの手すりが基準を直接解釈したデザインとなっている。対照的に、最低基準を超える安全性を達成した手すりや、多くの部品を統合して幅広い人々への使い勝手と安全性を向上させた浴室環境といった、UDのアプローチでまったく別の製品を開発した企業もある。
【写真:ヘウイの手すりと付属品のシステム/この手すりは、法規に遵守した単純な形態を越え、使い勝手の向上に多くの選択肢を設けている。】
 
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UDは理想の追求
 
 現在の定義とアクセシビリティは有限の概念である。基準に沿って測定可能だ。ところがUDはあらかじめ最終状況を定めない。法規制とは異なり、最低限遵守すべきレベルをもたない。最終目標というよりも、理想なのである。UDの成功は、入手可能な資源とプロジェクトの社会的文脈のもと、現状と比較してどれくらい製品や環境が改善されたかにかかっている。我々は進化し続ける宿命を強調するため、名詞よりも動詞の「ユニバーサルデザイニング」という言葉を好む。
 ユニバーサルデザイニングの実践は相対的である。場所によっては他と比べて緩やかなゴール設定をすることもある。例えば、舗装路が少なく、歩道がないところでは、車道と歩道を区別し人々の安全を確保することがUDの見本となるであろう。ところが、工業都市でそうした道路環境が整っている場合、UDは動く歩道で徒歩や車椅子での移動労力を軽減することを意味する。同様に、ある産業では、他と比べてUDが大きく進んでいる場合がある。例えば、調理器具産業は自動車産業よりもはるかに早いペースでUDを導入している。理由の一つは製品サイクルと開発コストの相違である。製品サイクルが短くて開発コストが低い産業ほど変革に取り組みやすい。
 
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UD7の再考
 
 障害者の権利運動によりアクセシビリティの規制は強化された。しかし、社会での完全参加は達成されていない。ここでユニバーサルデザインが必要とされる。市場経済による社会参画へのメカニズムである。実は、これまでに障害者の身体機能を補うために開発された製品に成功事例がある。タイプライターや録音機、音読機、音声認識、電子メールなどだ。こうした発明は身体や知覚に障害を持つ人々が社会参加を果たせるようにしただけでなく、その生産性をも高めた。障害をもたない人々の利便性に大きく貢献したことは言うまでもない。これこそがUDの価値である。

 21世紀が進むにつれ、世界中の社会は急激な高齢者人口の増加を経験する。アメリカでは、2030年までに65歳以上の高齢者が人口の20%を占めるようになる。建築ガイドラインで説明したように、新しい高齢者層やそれに続くベビーブーマー世代は大きな購買力をもっており、製品やサービスの市場に重要な影響力をおよぼす。コミュニティはそうした人々の自立したライフスタイルへの希望に応えなければ、そうした層を他のコミュニティに奪われてしまうだろう。公共部門では、減少する納税者で増え続ける高齢市民を人的補助や特注の補助器具、環境のカスタム対応で支えるのは大変な重荷となる。UDの製品や環境、システムは、納税者に負担を増やすことなく高齢期での自立を維持する方法なのである。

 我々はUDの定義と原則を再考すべきと考える。新たな定義と原則はゴールとプロセスを明確にし、的確な語彙で曖昧さを払拭しなければならない。アクセシビリティとの区別をはっきりさせ、異なる文化や経済のニーズに応える柔軟なアプローチを盛り込むべきだ。その結果、あらゆる製品や環境やシステムの設計・評価に役立つ指針が生まれるのである。
 
【参考文献】
Danford, S. and Tauke, B. (Eds.) Universal Design New York. New York: Mayor's Office for People with Disabilities, City of New York.
Levine, D. (Ed.) (2003). Universal Design New York 2. New York: Department of Design and Construction, City of New York.
Story, Molly. (2001) Principles of universal design. In W.F.E. Preiser and E. Ostroff (Eds.) The Universal Design Handbook. New York: McGraw Hill, pp10.3 - 10.17.
 
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