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#59 グランドワーク三島が主導する「水の都」のまちづくり
 
    − 源兵衛川再生のしくみ
 
                              曽川 大/ユニバーサルデザイン・コンソーシアム研究員
 優れたまちづくりはユニバーサルデザインそのものに通じる。住民自らが行うまちづくりでは、使い手と作り手が同じ立場になるからだ。そこには、総意を反映するテーマ、参加の仕組み、無理なく継続できるプログラムが存在する。グランドワーク三島はそうしたユニバーサルデザインのまちづくりを自然環境との共生で実践している。
 
源兵衛川は現在、清流の姿を取り戻したが、かつてはドブ川だった
 
グラウンドワーク三島
 

 三島市は富士山からの豊富な湧き水により、かつては「水の都」と呼ばれた。ところが、1960年頃から地下水系上流での工場用地下水の汲み上げで湧き水が減少。湧水河川は水量の減少とともにゴミの放棄や排水によって環境悪化が進んだ。1983年、危機感を抱いた市民が三島ゆうすい会を発足。この活動が1990年、農林水産省の「農業水利施設高度利用事業」へと発展した。日本のグランドワークの原点となる源兵衛川再生事業はここから始まった。1992年、三島ゆうすい会を主軸に市内8つの市民団体が結束して「グランドワーク三島」を立ち上げた。グランドワークとは、市民・NPO・企業・行政のパートナーシップのもと、住民自らが環境を見直し、自分たちで環境改善を行う活動だ。

  グランドワーク三島は源兵衛川の再生をはじめ、絶滅した水中花・三島梅花藻の復活、歴史的な井戸の復元、ホタルの里づくり、境川・清住緑地での原生林と湿地の復元、学校でのビオトープづくり、住民主導の公園など、30以上のプロジェクトを手がけていった。1999年にはNPOとなり、現在は20の市民団体が参加するネットワーク型組織に成長した。活動のテーマは水だ。グランドワーク三島の事務局長、渡辺豊博氏は「この指とまれ」と言ったときに8割の人が集まることが不可欠と語る。「単純で明快なことが大切です。源兵衛川の再生では、子どもの頃に遊んだ川を取り戻す単純な発想だからこそ、一致団結できたんです。」

 
市内のあちこちで見られる湧水は、水の都・三島の
シンボル
 グランドワーク三島の渡辺豊博事務局長
 
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絶滅の危機にあった三島梅花藻
住民と協働で維持管理するホタルの里
源兵衛川の再生
  遡ること15年、グランドワーク三島はまず、コンセプト作りに取り組んだ。1年半をかけ、50回以上も議論して水の都再生の行動計画を作った。湧水をどのように復元するべきか、どのような街にするかを「湧水網都市再生」というコンセプトにまとめた。それを基に源兵衛川に都市と農村を結ぶ水の道という役割を持たせ、遊歩道を設計した。

 次に二つの専門家集団を組織した。一つは設計家集団で、グランドデザイン、建築、土木、造園の専門家13人から成る。もう一つは生態系アドバイザー集団で、日本ビオトープ協会のメンバーや大学教授、トンボの研究家など、こちらも13人のメンバーだ。生態学の視点を入れるため、どのようなプロジェクトにも専門家を起用する方針だ。

 流域には13町の内会があり、2万人の住民がいる。事前アンケートでは98%が賛成だったのに、いざ遊歩道が自宅前に通るとなるとプライバシーの侵害を危惧する住民が現れた。遊歩道を右か左にするかで調整が難航し、高い塀を設置する動きまで出た。ところがいざ遊歩道が完成すると、塀を取り、自宅前に草花を植えるようになった。環境が改善されたことで、住民の姿勢が変わっていったのだ。景観を優先するために、遊歩道と川の段差に柵は設けていない。住民自らの手で整備した環境なので、事故に対する自己責任の考えが浸透している。渡辺氏は川遊びについて「倒れて水を飲み、少々の怪我をするのが自然」と語り、少々の危険は意に介さない。

 水辺がきれいになった結果、蛍やカワセミが増えた。すると、自然保護のために人を入れないように知事に直訴する大学教授が現れた。しかし、グランドワーク三島の考え方は違った。ビオトープではなく、人々が集うビオガーデンをめざしたからだ。自然の生命力は強い。たとえ子どもたちが沢蟹を取ってしまってもすぐに戻ってくる。グランドワーク三島は調査を行い、人が入ることで自然が損なわれないことを確認すると遊歩道を拡張していった。

境川・清住緑地には、トンボをはじめさまざまな昆虫や野鳥が生息している
川では子どもたちが元気に遊ぶ
右手にスコップ、左手にビール
 

 一方で、マネジメントの仕組みは高度だ。従来型市民運動の情緒的な動きや運動のための運動では限界がある。そこでグランドワーク三島は、川をデザインしながら人の心を変える運動を長期スパンで戦略的に行った。

 渡辺氏らは議論よりも行動、走りながら考えることを優先させた。「右手にスコップ、左手に缶ビール」という合言葉が象徴的だ。まず自分たちで川に入ってゴミをすくい、どのような川にしたいか議論した。発言には自己責任を取るのが前提だ。企業には利益やCSRよりも住民の要望に応えてもらう。ある企業は、住民が川を清掃することを条件に工場の冷却水を供給することに同意した。

 三島市は当初、環境改善には意欲的ではなかったという。そこで、市民団体が行政の役割を粛々と果たした。特筆すべきは行政の資金を当てにしなかったこと。例えば水のみ場の設置では、最初のモデルを自らがデザインした。80万円の設置費用のうち、30万をグランドワーク三島が出し、30万を他団体、20万を企業から調達した。管理はもちろん自らで行う。市は活動の実態を見てグランドワークを理解し、以降の設置については行政で負担することにした。

 
さまざまなデザインの遊歩道
住民が遊歩道沿いに植えた草花
地元有力者の組織化

 グランドワーク三島を実質的に取り仕切る渡辺氏は、静岡県のNPO推進室長でもある。行政情報はもちろんのこと、議会や市長のことも熟知している。住民にとって、これほど頼もしい存在は無い。

 会長は三島駅前の土地9ヘクタールを所有する資産家で、他にも名士や顔役約70名が名を連ねる。渡辺氏は実務面に自身をのぞかせる一方、社会的な信用において地縁に優るものは無いと語る。「いかにすばらしい戦略を立てても、信頼を勝ち得なければ計画は推進しません。歴史を持たないNPOにとって、延々と築かれてきた地縁組織を取り込むことがいかに重要か。会長就任の説得に1年半かかりましたが、それからの発展は著しいものでした。」他の組織にありがちな足の引っ張り合いもなく、20団体同士の仲もよいという。

住民主導の意識づくり

 プロジェクトを主導するにあたって徹底するのが役割の認識だ。「町内会に参加すると、行政や議員に頼る発言がよく出ます。そこで我々はまず、自分たちの役割は何かを徹底します。例えばゴミ捨て場になった空き地を「鎧坂ミニ公園」に整備した例では、まず誰がどのような目的で使うのかを議論してもらいました。アンケートを数十回実施し、見学会やワークショップも重ねて絵も描いてもらいました。その結果、デザインと管理の仕組みが住民の役割だという理解が浸透したのです。」

 住民を巻き込むためには、「ワンデイチャレンジ」や「ワンナイトチャレンジ」を実施する。公園化のワンデイチャレンジでは、半日で集中作業をし、後で酒を飲む。皆で取り組む意義を、身をもって知ってもらうためだ。昼間忙しい人のためには、ワンナイトチャレンジを行い、夜9時頃から夜中まで集中する。住民には文句を言うだけの人がいるが、その人たちをいかに引っ張り出すかが腕の見せどころという。

住民主導で整備した「鎧坂ミニ公園」
間伐材を利用したバイオトイレ
環境コミュニティビジネスへの取組み

 グランドワーク三島は現在、バイオトイレといった環境コミュニティビジネスにも力を注いでいる。タンクに杉チップが入っており、その力でし尿を水と二酸化炭素に分解。水を洗浄水に再利用する仕組みだ。役に立たない杉の間伐材がトイレ一つで150本必要になり、杉の山に価値が出る。現在、山を2ヘクタール借りる予定だ。そこで杉の木を切り出して乾燥させ、チップ状にする。作業は、障害者のある人たちに手伝ってもらう。カンボジアのアンコールワットへの輸出も計画中という。日本の山の再生をしながら外国の環境問題に貢献するシナリオだ。

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